古い名曲喫茶に行けば戦前の文化人の雰囲気がある。古本屋に入ると一九六〇年代の左翼学生の名残がある。雑貨屋には七〇年代のヒッピーの流れがある。ライブハウスには八〇年代のパンク魂がいまも息づいている。商店街には古いパン屋、豆腐屋、畳屋、葬儀屋などが残っている。もしかしたら、嫌な時代も含めた多様な時代の記憶があり、それらが重層的に堆積している。古い家のはがれたペンキか壁の落書きのように、それらの古い時代の名残が街のそこここに透けて見える。そういう多様で重層的な都市の記憶は、ファスト風土的郊外には期待すべくもない。