獄中短歌「百回休み」091
隣りには中国人が立っている 四(よん)!と叫んで規律を乱す
読者への挑戦。手がかりはすべて“31文字”の中に提示されている。どういう状況を詠んだものか、まずはいったん、推理してほしい。
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さて皆さん。
「番号!」「イチ!」「ニ!」「サン!」「シ!」……という場面であることは、わざわざ云うまでもあるまい。
推理の肝は、詠者である“私”の「隣り」に「中国人が立っている」と云っているわけで、では“私”と「中国人」はそれぞれ囚人たちの列の何番目に立っているのかを確定させることである。それは、「四」を「シ」ではなく「ヨン」と発声して獄中生活の「規律を乱」したのは“私”なのか「中国人」なのかを考えてみれば、すぐに判明する。
この「中国人」の囚人は、ほとんど日本語が分からないのだろう(そのことは明示されていないが、「四」を「シ」ではなく「ヨン」と間違った発声することが何か“ちょっとした事件”の発端となる状況が詠まれているらしいのだから、“日本語って難しいよね”的な話が何らかの形で絡んでいるに違いないことは容易に想像しうる)。かつ、「番号!」「イチ!」「ニ!」「サン!」「シ!」……という“流れ”も「中国人」の彼は単に“音”として丸暗記しているにすぎなかろうから、「四」を「ヨン」と発声したのが彼であるはずもない。つまり、列の4番目に立っていて「四(よん)!と叫ん」だのは“私”である。
そしてこの“異例の発声”に「中国人」がとまどって、一連の儀式の「秩序を乱す」結果が生まれるためには、「中国人が立っている」という“私”の「隣り」とは、3番目ではなく5番目でなければならない。「イチ!」「ニ!」「サン!」と流れてきたところに私が「ヨン!」と耳慣れない音を発したために、中国人は一瞬とまどって、「ゴ!」と叫ぶまでにヘンな間が空いてしまうのである。当然、その場が失笑に包まれて、「もとい!」となる。
悪いのは中国人ではなく私なわけだが、看守も「わざとではあるまい」と思って一緒に笑うだけで、怒りはしない。
もちろん私はわざとやっている。わざとだとバレるとマズいんで何度もやれないが、もう1回だけ、私が7番目でその「中国人」……陳さんが8番目の時に「ナナ!」とやって、この秩序紊乱の恐ろしいインボーをまたしても成功させた。