獄中短歌「百回休み」046
青い目の囚人による英語塾 胸に染み入る仮定法過去

 実話である。
 逮捕直後の警察署内の留置場では、第2ステージの拘置所までは進まず、それこそ1泊か2泊で釈放になる者も多いんだし、規律はかなり緩めで、囚人たちは金網越しにベラベラと大声で雑談をしている。そこへガイジンが1人入ってきたもんだから、みな興奮して「英語を教えろ!」とワーワー騒ぎ出し、「えいごのじかん」が始まったという場面。
 ここで小賢しい方面から、「もし(過去に)犯罪に手を染めなかったら(現在は)こんなところにはいないのに」的な文章を勝手に想像して、「そういうのは“仮定法過去”ではなく“仮定法過去完了”っていうんだよバーカ」と小賢しい指摘が飛んできそうだ。
 しかし残念ながら、我々は留置場に叩き込まれたぐらいで急に殊勝な気持ちになって過去を悔いたりしない。
 実際そのガイジンさんは、「もし私が鳥だったら、いますぐ君のところへ飛んでいくのに」などという反省のカケラも見られない、呑気な、教科書級の“仮定法過去の例文”を繰り返し口にしていたのである。こんな典型的な受験英語みたいな例文をいきなり出してくるあたり、もしかしたら英会話スクールの講師が大麻とかで捕まってたのかもしれない。
 まあ、文法用語を知らない人が「あんな間違いを犯さなければ……」と反省する例文なんだろうと素直に誤解して、ジーンとしてくれる可能性は織り込み済みでもある。