獄中短歌「百回休み」008
脱衣所にひしめきあえば入れ墨の侠(おとこ)の中に左翼が一人

 拘置所でも刑務所でも、私はずっと独房にいたが、風呂の時間は他の独房の人たちと一緒になる。会話は禁止。
 逮捕されるとまず警察署内の留置場、起訴されると拘置所、実刑判決が確定すると刑務所へというのが一般的なコースだが、やった犯罪の内容がショボい人は起訴されなかったり執行猶予がついたりして順次このコースから脱落していく。
 次の段階に進むにつれて、一緒にいる人たちの「入れ墨率」がどんどん上がっていくのがおかしかった。ヤクザに対しては判決が何割増しか重くなる傾向があるらしく(ひどい話だと思うが)、本来あるべき以上に次第に彼らの割合が多くなるのだ。
 福岡中央署の留置場で入れ墨率は二割くらい。拘置所で半分近くになり、刑務所までいくと半分以上になった。
 もっとも私の場合、拘置所で余罪受刑者(ある事件で懲役刑を務めている最中に、別の事件で進行中の裁判を抱えている者。普通は、執行猶予中に別の事件を起こして前件の執行猶予を取り消されたり、仮釈放中にまた事件を起こして前件の残りの刑期を務め直さなければならなくなってそうなる。私の場合はもっとレアな、説明するのもメンドくさいケース)という特殊な立場にあったから、一緒に風呂に入るやはり私と同じく余罪受刑者である面々も“本格派”の、“犯罪傾向の進んだ”方々が多く、だからあまり一般化できるデータではないかもしれない。
 狭い風呂に四、五人で入り、私以外はみんな入れ墨なんてこともよくあった。
 云うまでもないとは思うが、下の句は男なら誰しも小学校(低学年)時代に云ったり云われたりしただろう決まり文句「女の中に男が一人!」をふまえている。
 ちなみに私は現在、左翼ではない。逮捕された時点では左翼だったが、二年間の獄中生活のちょうど中間あたりで“転向”に踏み切ったからである。