『人民の敵』第5号(2015.2.1発行)


コンテンツ2
〈対談〉with 三浦哲史
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


外山 最近は博多での九電前抗議で……そもそもの話から説明すると、毎週金曜にやってる九電前抗議の、いかにも左派市民運動的なノリがイヤだっていうんで、主にロック系の人たちが火曜だか水曜だかに別個にやり始めたんだよ。
三浦 へー。
外山 それが2年前ぐらいかな。そこにやがて“西南学院大学アナキズム研究会・議長”なる学生が出入りし始めて……。右派系の反原発派も、日の丸を持参するんで左派の抗議活動からは排除されちゃって、このロック系の方に来るようになった。左派の金曜行動より、いわゆる“マルチチュード”的なというか、“有象無象”な感じで……。
三浦 やっぱり左翼の方が排外的なのかなあ。社民的な市民運動のセンスはよく分からないんだ、私のような由緒正しい新左翼には(笑)。だけど日の丸なんか持ち込もうとするからそうなっちゃうんだよって気もするし……。
外山 右翼なんだから仕方ないですよ(笑)。
三浦 そうなのかねえ。排除するっていうより、ぼくの場合は「なんで日の丸を持ち込む必要があるんですか?」ってむしろ訊いてみたいよ。だって、こっちも別に赤旗や労組の旗を掲げてるわけでもないんだからさ。
外山 いや、労組の旗は立ってるんですよ。
三浦 そうなんだ。小倉ではそういうのは出してないからなあ。小倉以外の金曜行動もいくつか見たけど、出してるとこはなかったよ。
外山 博多の金曜行動が特殊なのかな。だけどその右派の人も、日の丸を持参すると怒られるっていうんで、やっぱり持参はするんだけど来るたびにサイズを小さくしてて、最終的には“お子様ランチ”サイズになってた(笑)。それでも排除されるんだって。
三浦 誰が排除するの?
外山 メインでやってる人は許容してたんだよ。というのも、毎回日の丸を持ってきてた右翼のZさんって人は、3・11以降に博多でおこなわれた反原発のイベントには大小問わずほとんど参加してて、たぶん博多で一番マジメな反原発派なんです(笑)。そのことを金曜行動を主催してるメインの人たちはよく知ってるから、日の丸を持ってくるぐらいのことでZさんを追い出そうとはしないんだけど、たまに来るだけの奴がむしろ強硬に云いがかりをつけてくるらしい。具体的には、フリーター労組界隈の、ちょっとメンヘラ気味の若い活動家みたいだね。だけどいざそうやって揉めごとになれば、主催のメインの人たちも左派だから、「日の丸なんか持ってくる奴は排除しろ」って主張を立場的に否定できないんだ。
三浦 うーん……そうなっちゃうよなあ。
外山 で、左派の金曜行動とは別個にやり始めたロック系の中心の人も、家庭の事情とかで今はあんまり来なくなってて、Zさんたち右派の何人かがそれを引き継いでる。曜日も同じ金曜に戻って……従来の左派の人たちが夕方5時から夜7時までやってるのかな。それが終わって左派の人たちがいなくなると、入れ替わりに今度は右派系の人たちが日の丸を持って登場して(笑)、7時半から1時間ぐらい別個に九電への抗議活動を。
三浦 そのうち両方に行ってみようかな。
外山 両方に参加してる人は今たぶんいないから、それはいいかも。
三浦 とはいえ最近は小倉の金曜行動にもきちんと参加してないぐらいだから、なかなか博多まで行く機会も作りにくいんだけど。
外山 今は博多の金曜“第2部”は右派の色を前面に出してるけど、必ずしも右派系の人だけが来てるわけでもなくて、左派の主流のノリが合わない人たちが左右ノンポリを問わず集まってる感じ。
三浦 左派がやってるのとは主張やトーンに差があるの?
外山 雰囲気はだいぶ違う。
三浦 九電に対して云う主張の内容とかも?
外山 内容はどうだろう。右派の人たちはものすごくマジメなんで、なんというか……一所懸命、訴えてる(笑)。
三浦 たまにはそういうのを見に行くのもいいかもしれないなあ。
外山 とりあえず“見学”してみると面白いと思う。
三浦 ぜひ話も聞いてみたいんだよね。
外山 右派系は、日の丸問題で左派に排除されたそのZさんって人と、三浦さんも知ってる藤村(修)君の2人が中心だから、入っていきやすいとは思うよ。西南大アナキズム研究会の会長もよく来てるし、3・11以降に共産党に入っちゃった女の人も時々来てる。非正規雇用問題や原発問題をきっかけに最近共産党に入った人たちって、従来の共産党のノリとは違うでしょ?
三浦 そうだろうなあ。
外山 そういう人がむしろ、左派系ではなく右派系の九電前抗議に参加してたりするっていう(笑)。やっぱりもともとロック系の人だけどね。
三浦 面白い現象だね。
外山 世代も右派系の“第2部”の方が20歳ぐらい若いし。
三浦 そうなっちゃうよなあ。そういう現実を左翼の側は見ようとしてないのが問題だよ。少しは見てるのかもしれないけど、なぜ自分たちがそういう新しい人たちを獲得できないのか、あんまりピンときてないんだ。ぼく自身もピンときてるわけではないけど……。


外山 東京ではサスプルとかいう、秘密保護法反対のデモが盛り上がってるでしょ。共産党がかなり入り込んでるみたいだけど。
三浦 そう見てるんだ。
外山 もちろん共産党ではない学生が多いんだと思うよ。だけど要所要所に共産党が入り込んでる。
三浦 東京の人から聞くかぎりでは、やっぱりあれは反原連系の運動だって。
外山 それはそうです。
三浦 だけど共産党とはなぜか仲がいい、とも聞いてる。逆に共産党以外の左翼は徹底的に排除されるとか。
外山 そうなんだよね(笑)。だけどそういう、共産党がどうこうって話は措いて、ぼくが注目してるのは、“秘密保護法”なんて堅いマジメなテーマで千人規模のデモがやれてるってこと。一方にはここ数年、「ゆとり全共闘」とか「黒ヘル系全学連」とか云って“面白主義”の路線を追求してる人たちが首都圏にはいたでしょ。ぼくはもうかなり以前から“面白主義はやめろ”と学生たちに云ってて、つまりごくフツーに、マジメにやった方がいいって。
三浦 ああいう不真面目というか、意図的にヤサグレてみました、みたいなノリには、まだ日本社会が豊かだった時代のノリを引きずってる、オタマジャクシの尻尾のようなものを感じるね。
外山 ぼくもそうだし、矢部史郎や松本哉もそうだったと思うんだけど、中核派だの革マル派だの革労協だのって連中の存在感がまだある時代に自分たちの新しい運動を立ち上げていかなきゃならなかったという事情があって、“ああいう人たちとは違うんです”って差異化を図るために“面白主義”を追求してたんだもん。そういう必然性のないところで“面白主義”を追求しても、空回りするだけだよ。秘密保護法なんてマニアックな課題であれだけの人数を集めることができるんだから、マジメにやりさえすれば原発問題ならもっとたくさん集まったはずなんだ。中川(文人)さんも云ってたけど、秘密保護法なんか上級職国家公務員に将来なるかもしれないような学生にとってのみ“身近な問題”で(笑)、一般の学生からは“遠い話”だよ。
三浦 サスプルに集まってる学生たちの顔ぶれを見ると、やっぱりお金持ちの学生たちが行く大学ばっかりだなあって(笑)。以前も云ったと思うけど、××大の学生たちって、ほんっとに貧乏だからね。貧困問題直撃な人たちばっかりだもん。サスプルなんかを見てると、ぼくはまずそういう“格差”を感じてしまう。いかにもお金持ってそうな大学の、お金持ってそうな学生たちの運動だよなあと思って、貧乏大学の学生たちは何をすればいいんだろうって。少なくともサスプルと同じノリではやれない。


外山 “右とか左とかもう古い”とか、“共産党と新左翼の対立がどうこうって話は今さら云々”って雰囲気が蔓延してる中で、実際には共産党や革マル派が、多くの人の無関心に逆に便乗して着々とあちこちに浸食していってる状況は、困ったもんですよ。
三浦 そうなんだけどね。でも大きな団体は人もいっぱいいるし、アイデアも出るし、そのアイデアを実現する能力も資金もあるから、そういうことができる。この御時世に、我々のように小っちゃな小っちゃな貧乏組織でいることは罪だなと思うよ(笑)。
外山 (機関紙を見て)『戦旗』ってタイトルは変わってないんだね。
三浦 変わってないよ。
外山 だって組織名は変わったんでしょ、どっかの団体と合併して(註.三浦氏の所属党派はかつての正式名称「共産主義者同盟戦旗派」いわゆる「戦旗・西田派」だが、04年に同じブント系の「共産主義者同盟(全国委員会)」いわゆる「蜂火派」と組織統合し、現在は「共産主義者同盟(統一委員会)」というのが正式名称である。なお、かつての「戦旗・共産主義者同盟」いわゆる「戦旗・日向派」とは別組織で、西田派と日向派とは対立関係にあった)。
三浦 うん。
外山 だけど機関紙名は『戦旗』のままなんだ。
三浦 そうです。でまあ、ここのところ内部で議論を盛んにやってる時期なんだけど、その内容を仮に人民の前で公開でやったとすれば、たぶん「はあ?」って反応になりますよ(笑)それに対して「こうだ」と云えないのが、ぼくのダメなところなんだけど。
外山 (「共産主義運動を前進させ改憲-反動攻勢を打ち砕け」なる1面の大見出しを見て)とにかく共産主義革命をやるんだ、っていうのを前提に議論せざるをえない立場なんだろうからなあ(笑)。
三浦 それはそれで別にいいんだけどさ。もっと下世話なというか“三面記事的な”というか、多くの人が関心を持ってる具体的な問題とか事件があるでしょ。こういう問題についてはどう考えてるんですか、ってぼくら現場の活動家が一般の人たちに訊かれそうな、そういうのに応えていこうってとこがないんだ。こっちが云いたいことを一方的に云ってるだけって感じ。
外山 モノローグなんだ。
三浦 “云いたいこと”を云うのはいいんだけど、一方でぼくらの周りにいる人たちの側からぼくらに対して“訊きたいこと”、“振りたいこと”ってのもあるだろう、と(笑)。それを訊かれる前にこっちから汲みとろう、という発想がもう絶望的に、ない気がする。こっちの見解だけ一方的に垂れ流したってダメなのに。
外山 組織の中で三浦さんが一番若いってわけでもないんでしょ?
三浦 もちろん。もっと若い連中もいる。だけど、まさに問題はそこなんです。新しく入ってくる若い人たちが面白くない(笑)。要するにこっちの“調伏”にひれ伏しちゃった連中が入ってくるんであって、話してて「お、こいつは面白い奴だ」とか「刺激になる」とかって思わされるような人は入ってこない。共産党とかでも同じなんじゃないかと思ってるけど、結局はあの体質や論調に「オッケー」と云えちゃう人しか入ってこないわけでしょ。似たような人たちばかり集まってしまう。
外山 組織の体質が何かで抜本的に変わらない限りは、その悪循環からは抜けられないよね。
三浦 うん。ぼくはそれを“悪循環だ”と思ってるんだ。若い人が新しく入ってくれば、それはそれでみんな歓迎しちゃうわけだよ。ぼくも歓迎はするよ。だけどさすがにこないだは、ほっといても将来性がありそうな、有能そうな人が入って来て、たまりかねて「いつでも辞めていいんだからね」って云っちゃったよ(笑)。若い頃は、当たり前だけど、この組織に身を置いてることでいろんな刺激をもらえた、少なくともそう感じられたから続けてこられたわけで、面白い先輩たちもたくさんいたし……。だけど今はもう、ね。若い人たちは、そりゃ“若い”という点では我々にとっては魅力的だけど、一方で真面目なだけで。
外山 逆に面白い若者が三浦さんの周りに現れたとしても、組織には誘いにくいよね。
三浦 せっかく面白い奴を型にハメちゃえってことなのかよ、って思うし。


三浦 同じ“大卒”であっても否応なく“格差”が生まれる。80年代、90年代ならまだ“大学生”というだけで一定の階層の枠内というか、意識やライフスタイルにそれほど極端な落差はなかったし、平均的な“大学生”の像をイメージすることもできたじゃないですか。だけど今はもう、一口に“大学生”と云ってもその内部に目もくらむような格差が生じてる。
外山 一方にはサスプルのような“上流階級”の学生がおり……(笑)。
三浦 こいつら金持ってそうだよなあ、としか思えないもん(笑)。
外山 階級憎悪が(笑)。
三浦 「素晴らしい!」とかホメそやしてる人たちもいるでしょ。雨宮処凛も“運動に世代交替が”とか書いて喜んでた。それはそうなんだろうけど、ぼくなんかにはちょっと賛美しがたいものがある。最近、入ってきた若いメンバーは、恵まれた階層なのに、あえてウチみたいなところに入ってくるんだから素晴らしいんだけど、彼をもし××大の学生たちと引き合わせても、絶対に話がかみ合わないだろうなあってぐらいの格差を感じる。そういうところが80年代、90年代とは状況が違う。“同じ学生運動”ってふうにはまとまりきれないと思う。西南大の学生とでさえ、どうなんだろうと思っちゃうぐらい。西南ならまだ裕福な階層なんじゃないかな。
外山 学費だけ考えても、××大とはやっぱり違うでしょうね。
三浦 学力的にも西南は福岡ではそこそこの水準の大学だし。××大は……キツいよ。「奨学金を家計に入れてます」って人もいるぐらいだからね(笑)。
外山 ん? 実家に仕送りしてるってこと?
三浦 君んとこの家族は君の奨学金で食ってるのかっていう(笑)。
外山 養ってるんだ。
三浦 “養ってる”とまでは云わないけど、その分もアテにされてるんだと云ってて、何なんだよって。いやー、景気の悪い話ばかりで申し訳ない(笑)。
外山 とにかく絶望的な状況である、と。
三浦 “絶望”はしませんけどね。