『人民の敵』第4号(2015.1.1発行)


コンテンツ2
〈座談会〉with T氏・Y氏
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


Y氏 民主党はどっちかというと“円高でいいじゃん”という立場で、生活者的な観点からは輸入物価が上がらない方がいいってのは、それはたしかにそうなんだ。ぼくは個人的には民主党支持だけど、でもそこはやっぱり、働く人たちのことを考えると円安の方がいいんじゃないかと思うんだけどね。
T氏 どっちがいいかと云われても、どっちも一長一短あるから……。
外山 そういうことなんだよね? 円安・円高ってそもそもどっちがいいとかいう種類の話ではないんでしょ。
T氏 だけど民主党の時にはわりと極限まで円高が進んだから、円高の悪いところが出ちゃってたじゃん。期間も長かったし。生産力の海外移転に関して云うと、円高はもちろん要因の1つだけど、少子化の問題もあるからね。自動車メーカーが海外に生産拠点を移した理由のたぶん半分ぐらいは、国内で労働力を確保できないってことだと思う。円高以前から自動車工場のある地域はブラジルからの移民を認めたりしてたし、やっぱり少子化の問題が改善されなければ、円安になったからってそういうところが戻ってくるとは思えないんだ。だけど戻ってくる方向に作用する要素はあるし、戻ってこれる分野もある。円安になれば国内で作ったものを輸出できるんだし、やっぱり価格競争力があるってのは相当なことだよ。円安で値段が3割ぐらい違ってくると、製造業ではもうまったく比較にならんぐらいの差になるわけでしょ。今も国内に残ってる工場が海外に輸出することもできるようになる。
Y氏 海外に出たところが戻ってくることはない。少子化の問題もあるけど、やっぱり為替で利益が変動するのは避けたいと経営者だったら普通は思うよ、社員を守っていくという観点に立てば。“売れる国で作る”っていうのが為替リスクをヘッジする方法だし、せっかくそれができるようにしてきたのをわざわざ壊すことはない。微調整はあるかもしれないけど、基本的には海外に出た工場が円安になったからって戻ってはこないでしょう。だからぼくがさっきから云ってるのは、これからは輸出が効いてくるはずだし、観光とか伝統工芸とか農業に典型的な、そもそも日本から離れられない産業にとって有利な状況になるってこと。
T氏 観光とかはもう実際にその影響が出てるもんね。
外山 逆にどういう産業が不利になるの?
Y氏 輸入に頼ってる産業で……。
T氏 例えば牛丼屋とかがモロに影響を受けて、軒並み値上げをしてるじゃん。輸入品に頼ってる小売業は苦しんでる。
Y氏 あと商社も今までは円高でうまくいってたんだけど、原油価格が下がってることもあるし……。
外山 本来は円安になると原油とかも高くなるんでしょ。
Y氏 うん。
外山 だけど今はそうじゃないから、ちょっとヘンな状況ってこと?
Y氏 つい最近まで1バレル百ドルを超えてたけど、今は60ドルを割ったとかいう話で、4割も下がっちゃったら、為替で2割ぐらい上がったところで、最終的にはやっぱり原油が安くなる。
外山 円安じゃなければもっと安くなってるのか……。
T氏 原油って面白いよね。今まで原油が高かったのは、アメリカがずっと量的緩和をやってたんで石油市場が投資先の1つになってたというのもあって、アメリカが量的緩和をやめると資金が石油から離れて価格も下がった。そこにダブルパンチで、シェールガス革命によってアメリカで石油が自給できるようになって、シェールオイルの採算ラインが1バレル80ドルとかっていうんだよね。それまで1バレル百二十ドルぐらいまで上がりそうだったのが一気に80ドルまで下がって……。これまで産油国がOPECに集まって、価格との兼ね合いを見ながら原油の産出量も決めてたんだけど、OPECの中で意見が割れるようになっちゃったんだよ。もちろん原油価格が下がったんなら減産すれば価格は維持できるじゃん、普通に考えれば。だけど減産すると、これも当たり前だけど売上も減るんだ。売上を減らすわけにはいかない国もいくつかあるし、OPECの中にも協定で減産を決めたのに減産してない国もあって、それに腹を立ててる国もあって……。減産を決めてワリを食うのは自分たちだけじゃん、と考えて減産しなかったというのは主にサウジアラビアなんだが(笑)、サウジは複雑な国情を抱えてて、あそこは石油ですごくお金が入るんだけど、そのお金で王政に対する不満を抑えてて、石油価格が下がると政情不安定になっちゃうっていう(笑)。だけど一番キツいのは本当はロシアなんだよね。やっぱり1バレルいくらっていうロシアの採算ラインがあって、国際価格がそれを下回ると赤字になっちゃう。
Y氏 中東の原油は自噴するから、コストはメチャクチャ安いんだよ。
外山 ジフン?
Y氏 穴を掘れば自動的に噴いて出てくる。汲み上げなくていいんだ。
外山 なるほど! そんなことになってるのか。
Y氏 むしろ余計なところから漏れ出したガスが溜まって爆発したりしないように、安全策を講じるためのコストの方がかかるんじゃないかな。
T氏 中南米のどっかで……。
Y氏 中南米で石油といったらベネズエラだろうな。
T氏 減産の協定を守らないので有名らしくて、それに相当サウジが腹を立ててるって話を何かの記事で読んだ。
外山 中東だけじゃなくてベネズエラとかまで含めて協定を組んでたんだ。
T氏 ベネズエラもOPECに入ってる。
Y氏 論理的に考えて、すでにシェールガスっていう“ライバル”がいるんだからね。云ってみりゃOPECみたいなものはカルテルじゃん。あるいは労働運動に例えると“スト破り”みたいなことが起きてる。労働者が団結してて、団結力も強くて、その成果をみんなで分かち合えればいいんだけど、シェールガスが出てきた時点で、団結しててもそれと関係ないところに有力な労働者がいるような状況になるから、団結が壊れちゃう。独占力がなくなったらカルテルはもう成立しない。アメリカにシェールガスが出て、しかもアメリカはOPECなんかに入る気はないって時点でもう勝負はついてる。しかも世界的に需要が下がってて、上がってるのはアメリカだけなんだし。
外山 なんで需要が下がってるの?
Y氏 景気が悪いから。
T氏 景気と石油の消費量はわりとダイレクトに比例する。中国も今は景気がどんどん後退してるし。
Y氏 中国の景気が悪いってのは、経済成長を見込んで投資したのが回収できないっていう景気の悪さだから、普通の不景気とは違って、まあ“高度成長の終盤”ってことだよね。


Y氏 中国ってそもそも広いし、歴史もとくに古代関係は日本の比にならんぐらい充実してて、観光資源がもともと豊富だってこともあるけど、“産業としての観光”って面でも日本よりずっと先を行ってるからね。集客力はすごい。そういう“観光資源の宝庫”、すごいライバルがすぐ隣にいるっのは、日本はかなり頑張らなきゃいけない状況。万里の長城とか観ちゃったら、もう日本になんか寄らなくていいか、ってなっちゃうよ(笑)。
外山 あれに匹敵するものはちょっと日本にはないもんね(笑)。
Y氏 日本中の観光地が束になってかからないと。外山も云ってるとおり、東アジアは何だかんだで結局は中華文化圏だから、三国志にしろ“項羽と劉邦”にしろ、日本人も韓国人もみんな知ってるわけじゃん。日本なんかとくに“故事成語”とかを今でもフツーにガンガン使ってるぐらいなんだから。「一騎当千」の由来になった出来事があったのはココですよ、「三顧の礼」はココですよって云われたらさあ(笑)。そういう文化的な強さを持ってるところに勝たなきゃいけないとなったら、それは大変だよ。でもまあ中国の経済成長も追い風で、中国人が海外に行けるようになってるし、たぶん中国の人たちも日本みたいな社会にすることを目指すようになる。だってG20だか何だかで首脳会談を開いた期間だけは北京でも青空が見えましたって(笑)、そんなことではダメだというのは中国人もみんな分かってるよ。
外山 へー、今の中国でも頑張れば青空になるんだ。
T氏 その期間、工場を止めたわけですよ。後でその分あちこちにすごいシワ寄せが行ったらしいけど(笑)。
Y氏 そんなことじゃダメだとみんな思ってますよ。ただそれは先進国もみんな一度は通ってきた道なんだから……やっぱりダメなんだな。みんな一度はそこを通らないと分かんないんだよな。
外山 いやまあ、たしかに日本も通ってきた道だけどさ、それにしても中国はヒドすぎない?(笑)
T氏 そこらへんを顧みずにやってきたからこそ安い製品をたくさん作って経済成長できたんだし、それで富の蓄積がある程度できたら、今度はそのお金を国内の環境整備とか国民の生活向上のために使うのが筋で、だいたいどこの国だってそうしてきたんだし。
Y氏 だけどやっぱり民主的な部分で微妙な国は“遅れてる”としか見えないよね(笑)。政権を維持するためにも今後どこかで手を打つだろうけど、もっと早く手を打つべきだろう。日本とかだと、どんなに自民党の一党支配が続いてたとはいえ、その“一党支配”が危ぶまれるような問題にもなりかねないと判断したからこそ、さすがに自民党も公害問題を何とかしなきゃと腰を上げたんだろうけど、中共はそういう心配を自民党よりはるかにしなくて済むから、腰を上げるのもそれだけ遅くなるってことはあるよな。


外山 そもそも民主党が政権をとれたのも多くの人が「もう自民党はイヤだ」と思ったからだし、今は「民主党じゃダメだ」と多くの人が思ってるから自民党政権になってるだけで、いずれにせよ積極的な支持ではないでしょ。
Y氏 それが小選挙区制の“成果”なのかもしれないよね。ただぼくが思うに、少子化がなぜ起きてるのか断定的には云えないけど、少子化がどんどん進行していく中で民主党が政権をとってたのは、わずか2、3年にすぎないんだよ。それ以外はほぼずーっと自民党が政権をとってて、今の日本の状況が、政治が何らか影響を及ぼした結果でもあるとしたら、民主党よりもはるかに自民党の責任なんだけど、そこが見えてない人が多い。
外山 それはまったくそのとおりだよね。なんで原発事故で民主党が叩かれなきゃいけないんだっていう(笑)。
Y氏 自民党の政策で作ってきた原発が事故を起こした時にたまたま民主党政権だっただけで、それを自民党の連中は「おれたちならもっとうまく対応できた」とか云ってるけど、嘘つけって感じだよな、あんな未曾有の事故を。情報もなかなか入ってこなかったんだし、情報が不完全な中で意思決定しなきゃいけないんだから非常に厳しい状況で、仮に自民党ならもう少しうまくやれたとしても、しょせん五十歩百歩、目クソ鼻クソの類だよ。
T氏 メルトダウンしたとこまでは何政権だろうが一緒だったと思うよ。それ以降の対応や復興の段階ではもしかしたら差が出るのかもしれないけど、自民党政権に戻った現時点でもそんなに状況が好転してるとも思えないし。
外山 まあ自民党政権だったら原子力ムラとツーカーだから、うまくいろんなことを隠せたかもしれないとは思うけどね。
Y氏 それはあるかも。だけどいくら菅さんが官僚と仲が悪くても、あの状況では官僚もさすがに菅さんだから協力しないってことはなかったと思うよ。


外山 この先あと10年ぐらいは自民党政権が続きそうじゃん(笑)。
Y氏 うーん、そう思うのか……。ぼくは今回の原発政策と特定秘密保護法と集団的自衛権でもう安倍さんは終わったと思ってたんだよ。だから今回、安倍さんが急に衆院解散するって云い出したんで、実は小躍りして“安倍さん、ナイス!”と思ってたんだ。ところがやっぱりさすがにいろんな情報が集まる立場にいる人の方が状況をよく読めてらっしゃるようで(笑)、さっき云ったように安倍さんは自分が有利だと思ったところで解散する権限を持ってるんだから、ちゃんと勝てる見込みがあって解散したんだなって、自分の情報収集力のなさを反省してるところですよ(笑)。
T氏 でも原発とかってそんなに影響あるかな?
Y氏 効くと思ったんだけど……本当にみんなあれでいいのかな。
外山 いや、世論調査をすればそりゃ原発はやめてほしいって人が今でも過半数だけど、選挙では争点にすらなってないじゃん。
Y氏 たしかにこないだの都知事選挙でも争点になったのかどうか怪しかったぐらいだもんね。
T氏 だってこれだけさんざん何期連続で貿易赤字だって報道されて、しかもそういうニュースの最後に必ず「エネルギーの輸入増加が原因」って書いてあって、あれはかなり効いてると思うんだけどね。ああいう記事が続いてるかぎり、やっぱり原発を再稼働しないと今の状況は好転しないんだっていうふうに、少なくとも新聞を読んでる層は思ってるんじゃないかって気がするよ。新しく原発を建てるって話にでもなれば、それはさすがにちょっと待てよということになるかもしれないけど、今ある原発を再稼働するってぐらいのことだったら……。実際この3年の間もまったく稼働してなかったわけじゃないじゃん。大飯原発が再稼働したこともあったし……。
Y氏 事故後も定期検査の時期が順次来るまでは動かしてたんだもんなあ。
外山 まあ実際そんなにしょっちゅう事故を起こすものでもないしね(笑)。
Y氏 ただ本質的な問題は廃棄物がどんどん貯まっていくことじゃん。どうにも処理できないものを次世代に残しちゃうんですか、って話なんだよ。
外山 そんな遠い将来のことは選挙の争点にはならない。みんな目先のことしか考えないもん。
Y氏 それは……“民度”の話じゃん。
外山 うん、そうだよ(笑)。


Y氏 ちょっとトイレ行ってくる。
外山 いやー、議会政治や経済の話をされると、一方的に聞いてるしかないよ(笑)。とくに経済の話は……。
T氏 山田氏に云いたいことはたくさんあるんだが……今日は楽しく飲みたいしね(笑)。しかし実際どうなんだろう。云われてるほど自民党は大勝しないんじゃないかとも思ってるんだけど。
外山 よく分からないよね。昔は、どっちかが優勢って報道が出ると、むしろそっちに不利に作用してたでしょ。そっちを支持してる側は「じゃあおれが投票に行かなくてもいいか」って気になるし、劣勢って云われた側は「このままだと大変なんです!」って訴えやすくなるし。だけど今は必ずしもそういう作用をしないとか云うじゃん。
T氏 そういうメカニズムまで含めて情報が入ってきちゃうし、「じゃあわざわざ行く必要もないか」って人と「じゃあ勝ち馬に乗ろう」って人が同じぐらいいて、結局だいたい報道されてるとおりになるんじゃないかな。ただ“自民党大勝”って予想が出た後に、昨日、今日と株価がどんどん下がったんだよ。さっき云ったように、7月〜9月のGDPの悪い数字が出ちゃったから。それはもしかしたら選挙結果に影響があるんじゃないかという気はする。まあ、分かんないけどね、投票日までにはまた株価が上がり始めるかもしれないし。ともかく、おれは昔からずっと云い続けてるけど、政権をとりたかったら経済政策をちゃんとしなきゃダメで……。
Y氏 そりゃそうだよ。歴史的にいつだってそう。
T氏 そこをないがしろにして政権をとれた例はたぶんないし、逆にそこさえちゃんとしてれば、それ以外の失政は意外と見逃してもらえる。アベノミクスが百点満点だとは決して思わないけど、対案を出してる党がないことが問題で、うまく行くかどうか分からないけど期待はできる経済政策を示してるのは自民党だけってことだと思う。アベノミクスの批判はするけど、ウチならこうする、っていうのがない。さらには、有権者に広く浸透させなきゃならないんだから、“分かりやすさ”も重要なんだ。つまり“分かりやすい対案”を出してるところが他にないってことが、選挙結果に反映されると思う。
Y氏 それは分かります。経済が一番大事。古今東西、選挙で政権を選ぶ政治では……。
外山 そうだね。“革命”じゃない限りは。
Y氏 うん、革命じゃない限りはそう。おっしゃるとおり。“原発”が争点にならないのも結局はそこで、原発どころじゃないんだよね。核廃棄物を将来どうするのかって話はともかく、まさに“将来”とかじゃなく今、子供を育てていかなきゃいけないってことの方が大事だっていうのは、それはもうおっしゃるとおりで、それを云われたらもう何も云えない。


外山 おそらく90年代以降、社会のありようを大きく変えなきゃならない状況に直面してるんだよ。だけど同時に、これまでずっとやってきたことをやめたり、新しいことを始めたりするとかいった大きな決断が、一切できないようなしくみも強まってて、何とかしなきゃいけないことは分かってるのに誰も何もできないっていう、どうしようもないことになってる。
Y氏 俗に云う既得権益ってことかなあ。
外山 いや、既得権益というか……。
Y氏 それなりに歴史がある社会では、何か大きな変化を起こそうとすれば、しがらみもあるし、なかなかうまく進まないのは当たり前だけどね。
外山 例えば諸外国ではトップが代わると大きな舵取りをして、思いきった改革をすることも多いじゃん。
Y氏 うーん……そうだねえ。
外山 そもそも戦後日本では、何も決めなくてもよかったんですよ。米ソ冷戦の枠組の中で、そこから離脱しようとは考えないのであれば、日本がとりうる進路はほとんど決まってるんだし、誰がトップだろうが何党が政権をとろうが、それをやればよかった。何も自分で決める必要がなかったんで、そういうシステムになっちゃってて、いざ思いきって何かを決める必要がある局面になった時に、まったくそういうことができない。そういうことをやろうとする人が出てくると、むしろ失脚しちゃうようなしくみが完成してるんで、誰も何もできないままもう20年、30年がただ経とうとしてる。
Y氏 昔もそれなりにいろいろ決めなきゃいけないことがあって、そのつどそれは決めてきたんだろうけど、たしかに今のぼくらが直面してる状況から見れば、それらはそれほど大した問題でもなかっただろうって気もするね。吉田茂あたりは相当大きく方向を決めたのかもしれないけど。
外山 うん。でも吉田茂が決めたことは、今後何も決めなくていいようなしくみを作ることでしょ。
Y氏 そこらへんは何とも云いがたいけど、やっぱり昔は昔でそれなりに大きな問題もそれなりに存在して……。
外山 おそらく敗戦直後から50年代のどこかの時点までかけて、ものすごく考え抜いていろんなことを決めて、それがあまりにもよくできた、うまいシステムだったために、それ以降はもう……(笑)、冷戦が終わるまで何もやらなくてよかったんだよ。
Y氏 うまい喩えかどうか分からないけど、野球。ホームベースと1塁、2塁、3塁があって、ピッチャー・マウンドがある。それぞれのベース間の距離や、マウンドからホームベースまでの距離とか、決まるまではなかなか大変だったかもしれないけど、いろいろ試行錯誤して、どうもこれぐらいの距離にするのがゲームを一番面白くするようだってことで、空振り3回でアウトとか、アウト3回で交代とかいうことも含めて、いったん決まってしまうと後はもう、左右どっちのバッターボックスに入るかとか、新しい変化球を考えたり、その他いろんな細かい戦術とかの話になって、基本構造には手をつけなくていいってことはあるかもしれない。


T氏 おれが思ってるのは……“ネトウヨ”ってほんとにいるのかって(笑)。
Y氏 そういう話もあるか。
外山 たしかにネトウヨ1人あたりの活動量はすごい気もするし(笑)。
T氏 ヤフーのニュースにコメントが連なるじゃん。ヤフコメって、レベルが低くて有名なんだよ(笑)。はっきり云って2ちゃん以下(笑)。見てれば分かるけど、ほんとにレベルが低い。コメントに対する“賛成・反対”をつけることができて、どういうコメントにどういう反応があるかも見られるんだけど、やっぱり耳に心地のいいコメントに賛同が集まる傾向がある。いわゆる“ヘイト”だってそう。例えば韓国のいろんなニュースに、“やっぱり韓国人はアホやな”ってコメントすると“賛成”がバーッとつく。それに対して“みんながみんなアホってわけでもないですけどね”って正論を吐いても、まあ案の定、全然支持されないんだ。ただそれも単に聞き心地のいい意見に対して“賛成”って云ってるだけで、内容には一貫性がない。
外山 ちょっと考えなきゃ答えの出ないような問題には……。
T氏 反応がない。あるいは、コメントの口調によって反応が全然違うんだ。正論を云ってても言葉が乱暴だと“反対”が多かったり。
Y氏 なるほど。“内容”じゃなくて“口調”におまえは反発してるだけだろ、みたいな(笑)。
T氏 “賛成・反対”なんて直感的な感情で云えるから、本当は正しいことを云ってるはずであっても、喧嘩口調だったり、ちょっとバカにしてる感じだったりすると、“反対”が多かったりする。そういうのを見てると……なるほど、これが衆愚っていうやつか、と(笑)。
外山 少し話を戻すけど、たしかにネトウヨそのものは実体より多く思われてる印象はある。だけどそれに影響されちゃってる奴がすごく多くて、いろんな飲み屋でカウンターで隣り合った若者と話してみると、まあたいていネトウヨなんだ、云う内容が。
Y氏 “政治の話をする”ってのは、ぼくらが高校生・大学生の頃にはかなり特殊なことで……。
T氏 うん、そうだね。
Y氏 “政治の話をしてる”って時点で周りからは浮き、必然的に“政治の話をする”人たちだけで固まって、その中で激論を闘わせてると、外側からますます冷ややかな目で見られて、“そんなこと云い合ってても社会を変えられるわけでもあるまいに”って、右であれ左であれ、思われてたじゃん。ところが最近は市井の人々が、韓国がどうだ中国がどうだと話してる。こういう光景は、“政治の話”をして周りから疎まれてたぼくらから見ると隔世の感があるんだけど、その“隔世の感”を共有してくれる人は少ないんだ(笑)。
外山 だって元々は少なかったんだから(笑)。
Y氏 40歳になってから政治に目覚めるような奴らは話にならんよ(笑)。
外山 ある時期まで政治的な問題はごく一部の限られた人たちの話題だったから、逆に云うと平均的にかなり勉強してる人たちばっかりで、こっちもかなり勉強してないと相手にされなかったじゃん。
Y氏 そうだよな。
外山 でも今は、韓国が、中国が、と勉強もせずにネットに書いて反応があるから、ほんとレベルが低いままで“分かり合った”気になれるんだ。
Y氏 まったくそのとおりだね。
T氏 政治的な問題について知ったり考えたりすることが目的というより、賞賛されたいとか、“賛成”って云ってもらいたいってことが動機で、政治的な話題は単にその道具でしかないって人がたぶん多い。
Y氏 それを云っちゃうと、我々だって政治について語るのは、理解を得て賛同を広めたいからなんだけど(笑)。もちろん社会を良くしたい、日本を良くしたい、世界を平和にしたいって目的はあるが……。
T氏 おれの場合は……実際どうよ。最初の方でちょっと云った、庶民は選挙の時だけ政治のことを考えて、それ以外の時は自分の仕事とか、日常生活の問題だけ考えてればいいって話と矛盾するかもしれないけどさ(笑)、おおよそ日々の生活の中で“政治的でない”ものなんかあるかっていうぐらい、すべての行為は政治的だし、ちゃんとものを考えた上で何かの判断をくだすって時には政治的にならざるをえないというか、そもそもそれ自体が政治的であるというか……。逆にそういう認識にたどり着かないような思考って何なんだと思ってしまう。それは単に考えてないだけだよね。マジメに考えてれば、たいていのことは最終的に国の政策にまで結びついてしまう。“運動”みたいなことだけが“政治”ではない。ましてや、タテマエかもしれないけど一応“主権在民”で、政治家ひいては総理大臣まで自分たちで選んでるんだよ。だったら不用意に“政治家はバカだ”とか云えない。
Y氏 そうだね。そういう云い方にはぼくも疑問を持ってる。
T氏 だから今の政治がイヤなんだったら、極端なことを云えば……。
Y氏 革命を起こせ、と。
T氏 いやいや、その前に(笑)。立候補だってできるんだって話だよ。
Y氏 そんなに云うんなら、まずあなたが出なさい、と。
T氏 わりと本気で云ってるんだけど、国民主権の民主主義国家において、選挙に行って投票するのは“権利”じゃなくて“義務”なんだ。立候補するってラインから先が初めて“権利”。
Y氏 なるほど。
T氏 主権者は選挙に行って、自分の弱々しい影響力を何年かに1度行使するって責務を果たして、ベストじゃなくてもベター、ベターではなくても最悪ではない選択をする。それは権利じゃなくて義務なんだよ、たぶん。
外山 民主主義を是とするなら、そうだとぼくも思う。
T氏 うん、おれも外山氏の立場はよく理解してる(笑)。
外山 だけどT氏が今云ったようなことに思い当たらないような奴まで含めて物事を決めるのが、民主主義だから(笑)。
T氏 まあそうなんだけどね。云ってることが矛盾するようだけど、最近よく2ちゃんとかで“なんで選挙に行かなきゃいけないの?”、“選挙に行かなきゃいけない理由を教えてほしい”とか云ってる人たちを見ると、行かなくていいよと思う(笑)。そんなことを教えてもらわなくちゃ分からないような奴は行くなって(笑)。おれはおまえが行かずに無効になった1票の分だけ大きくなったおれの影響力をどーんと行使するから、それでいいよって。行きたくない人は行ってくれない方が、おれの1票の影響力は増えるもん。
Y氏 そうだね。1票の強度が高まる。
T氏 うん。だからぜひ行かないでほしい(笑)。


T氏 おれはヲタだから、アニメ関連のサイトをよく見てるんですよ。すると、なんでこれがそんなに支持されるのか理解できないような“話題作”があったりするんだ。今期のアニメで、アマゾンのランキングでも1位になって、初動で何万本も売れてる作品があるんだけど、どうしてそんなに売れるのかよく分からなかった。そもそもどうしてそういう“売上”の話なんかが関心を集めてるのか自体が、おれなんかには理解できない。少なくとも観る側にとってはそれが観て面白いのかどうかだけが重要で、売上なんかどうでもいいはずじゃん。おれが観て面白いか面白くないかって判断を、自分でしてない人たちがいるんだ。たしかに売上は面白いかどうかの基準の1つではあるよ。客観的な数字なんだから。だけど世の中のヲタの間ではこれが評価されてる、これがウケてる、ってことになると結局それを観る、自分もそれを“評価する”って流れが今は確実にある。……“質アニメ厨”ってのがいるんだよ。この作品は売れなかったけどすごく品質が良くて、これを評価できなかった世の中は間違ってる、ってことを主張したがる人たち。
Y氏 だけど“マニア”ってそういうものじゃん。
T氏 うーん……そこは……難しい(笑)。
Y氏 そうなのか。それは失礼しました(笑)。
T氏 でもそういう“質アニメ厨”みたいな存在に対する、おそらくはアンチテーゼとして、ランキング至上主義的な“ランキング厨”が出てきたんだよ。「そんなこと云うけど、おまえの云ってるやつなんか全然売れてないじゃん」っていう。“質アニメ厨”を黙らせるには“数字がすべて”っていう価値観を提示するしかないからさ。たぶん“質アニメ厨”の方が先行してて、そういう連中を叩き潰すために“ランキング”の話が持ち出されるようになって、いつしかそっちが主流になってしまった。
Y氏 ちょっとごめん。基本的な前提がよく分かってないんだけど……(笑)。そういうのって、実際に買うに際して、まずは例えば立ち読みなり何なりして、それが面白そうであるかどうか、ある程度は判断できるような……。
T氏 今のアニメって1クール13話で完結するものが多いんだ。テレビで放映するのは、あとでDVDやブルーレイを買わせるための宣伝手段で。
Y氏 ん? ということは、DVDを買ってる連中は、そもそも先にテレビで放映されてたのを、少なくともある程度はすでに観てるんだ。
T氏 もちろん。
Y氏 じゃあ商品の内容は知ってて……。だとすれば、たしかにそれは“確かな数字”ですなあ(笑)。
T氏 ……あ、さっきからこの話の文脈で何を話したいのかというと(笑)、昔、オタクが少数派だった頃は、オタクの特質ってのは“語る言葉を持っている”ってことだったんだよ。
Y氏 ああ、なるほど。
T氏 自分が評価するアニメについて、なぜこれが素晴らしいのか語ることができなきゃいけなかったし、さらにはそれを“どう語るか”ってことも常に考えなきゃいけなかった。
Y氏 伝道することが任務だったんだ。
T氏 語るためには当然、審美眼が必要なんだ。さらに自分なりの評価軸も確立しなきゃいけない。もちろん全員が全員そういうタイプではなかったよ。昔のオタクが全員そんな“一騎当千”みたいな奴ばかりだったかというとそんなことはなくて、そりゃクズみたいなのもいっぱいいた(笑)。女の子が出てりゃ何でもいいような。だけど、世間の評価はそれとして、自分の評価軸をちゃんと持ってることが、オタクのオタクたる、何というのかな……。
外山 矜持?
T氏 うん、矜持。
Y氏 そこが“強さ”でもあったんだろうね。世間がどう云うかはともかく、自分はこれが好きだっていうのが根幹だった、と。
T氏 そうそう。“世間がどう云おうと……”っていうのがあったはずなんだけど……。
Y氏 あ、そういう話か。つまり“ランキング”ってのは……。
T氏 おかしいじゃん、オタクとして。
Y氏 そうだよね。
T氏 “みんなが評価してるから、おれも評価する”っていうのは、本来のオタクの価値観とは全然違う。
Y氏 自分が好きな作品を批判する奴に対して、擁護の論陣を張る時に、援護射撃として“ランキング”の話を持ち出すぐらいのことならともかく、最初から“ランキング”を根拠に自分の好みが規定されていくような奴は、そもそもオタクとしてどうよ、と。
T氏 “えーっ!?”っと思うよ。まあ時代が変わって、今はオタクって少数派じゃなくなってるからね。
Y氏 そこは大きいかもしれない。
T氏 今でもマイノリティではあるかもしれないけど、絶対数はメチャクチャ増えてるし、市民権も得て、そう珍しいものでもなくなったし。
Y氏 市民権を得たことは大きいかも。
T氏 オタクであることを隠す必要もなくなった。
Y氏 武装解除しちゃったんだね。闘わなくてよくなった。
T氏 おれたちの世代は、上の世代のオタクたちともちょっと違ってて……上の世代はヤマト世代で、おれたちはガンダム世代なわけね。
Y氏 なるほど(笑)。
T氏 で、おれらの世代にはやっぱり宮崎事件がすごく影を落としてるんだ。あの事件のおかげで、オタクがものすごく不遇な時代が長く続いたんだよ。
Y氏 そうね、あれは決定的だったね。
T氏 アニメを観てます、マンガ好きです、っていうだけでもう……。
外山 犯罪者予備軍(笑)。
T氏 まさにそう。世間に大きな顔できなかったもん。
Y氏 そうかあ。たしかにあれは、そうだっただろうねえ。アニメが大好きって堂々と云うのは、ほとんど“カミングアウト”のレベルだったかも(笑)。
T氏 少なくともマトモな社会人として扱ってもらおうと思ったら、それは云えなかったよ。そういう意味でも、おれらの世代のオタクは、自分がオタクで、アニメが好きだということに関して、完全に理論武装をし終えてからでないと、アニメについて語り始めることもできなかった。
Y氏 理論武装というか、たぶん、自分はアニメが好きだけど宮崎勤とは違うってことを説明する言葉を持たなきゃいけなかったってことだよね。
T氏 まず言葉ありき、でないとオタクであり続けることが難しかった。
Y氏 はいはい。それはよく分かる。
T氏 ところがさあ、どうしてくれようかっていうぐらい今の若い世代のオタクには言葉がないんだ(笑)。
Y氏 そういうふうに聞くとむしろ、今の人たちの方が“正常”で、T君たちがあまりにも社会的にキビしい時代状況に直面しすぎて、闘わざるをえなかったっていう……戦後の食糧難の時代を生き延びざるをえなかった世代が、今はモノがあふれてそういう苦労をしなくて幸せですね、みたいな話かもしれないよ(笑)。そりゃあたしかに“今の若い連中は……”って云いたくなるでしょうけれども(笑)。


外山 しかし今日は……経済の話から野球の話になって、最後はさらにITの話で、ほとんど議論に絡めなかった。お2人の話を一方的に聞いてましたが、『人民の敵』のコンテンツとして、はたしてこれが面白いのかどうか……(笑)。まあ編集者目線では、こういう回があってもいいと思ってて、外山恒一が、一次大戦後のベルサイユ会議の議事録で日本全権が「本日も発言なし」って毎日書かれてる、みたいな状況になってること自体が面白いと思うんだけど、それがうまく伝わるといいな(笑)。
Y氏 しかしこのメンツでの飲み会はいつも有意義だ。
外山 ぼくの周りはだいたい極端なことを云う人たちばっかりだし、ぼくにとっても毎回新鮮だよ。ぼくを支持してくれてる人たちや、『人民の敵』を購読してくれてる人たちも、やっぱり普段はラジカルな言説に見聞が偏ってるだろうから、今日みたいなごくごく常識的な政治談義は、もしかしたら新鮮かもしれない。常識的な意見とはいえ2人ともそれなりにインテリだしね。外山恒一の周りにこんな常識的な友人たちもいるのか、ってこともちょっと面白いかも(笑)。あ、だけどいつか施君(施光恒・九州大学准教授。保守リベラル派の新進政治学者として売り出し中。中学時代はやはり今回の3人を含む近しい同級生グループの1人だった)も入れて話したいね。
Y氏 その方面の専門家だもんな。だけどあの施君が今や政治学者だというのも、まさに隔世の感がある(笑)。学者になったってことは、少なくとも学生のうちからそういう方面に関心を持って、わざわざそっちの道に進んだってことなんだから、40歳になって急に政治に目覚めたようなそこらへんのタコとはやっぱり違うってことだ。ほんとに今はタコが多いから困るよ。