まずはこの15作品を読め!
(2007年ごろ作成)

村上龍『69』(集英社文庫)
 反体制的な方向で熱くなるのはとにかく「楽しい!」ということを圧倒的に分かりやすく示した大傑作。内容的には著者の体験した“佐世保北高校全共闘”の回想記で、タイトルどおり1969年の1年間の出来事を扱っている。映画版は(クドカン脚本にしては珍しく)駄作なのでこの原作を読むべし。
福田和也『魂の昭和史』(小学館文庫)
 我々団は、運動スタイルは左翼的で思想信条は右翼的という団体である。後者については、例えば本書がその入門用には向いていよう。若い世代に向けて平易な文体で近現代史が解説されている。とにかく日本を悪く云うのは許さん、という今ふうのバカなネット右翼と違ってバランス感覚があるのもよい。
浅羽通明『右翼と左翼』(幻冬舎新書)
 最近は右も左も「今どき右だの左だの古い」と寝ぼけたことを云うが、たいていは自覚がないだけである。古いだなんだと云う前にまず歴史を知るべし。そうすれば、左右対立から自由になるのが本当はいかに難しいかも分かる。浅羽通明は初心者向けにややこしい問題を解説するのがうまい。本書では、右翼と左翼の誕生から現在までがわかりやすくまとめられている。
立花隆『日本共産党の研究』(講談社文庫)
 本気で社会を変えようとするなら、本気で社会を変えようとした人々のその試行錯誤の歴史を知っておかなければならない。最近、共産党に入る若者が増えているというが、本書さえ読んでいればそんなふうに道を誤ることもあるまいに。日本最大の左翼組織である共産党の、とくに戦前の歴史を詳述した全三巻の大作。知れば知るほどろくでもない党である。
立花隆『中核vs革マル』(講談社文庫)
 戦後の左翼運動をリードしたのは共産党ではなくそこから決裂して誕生した“新左翼”と呼ばれる潮流である。その代表的な二大組織が、やがて“内ゲバ”と呼ばれる凄惨な殺し合いを演じる経緯を詳述したこれまた上下二巻の大作。本書の記述はそのピークである75年で終わっているが、殺し合いはつい10年ほど前まで続いていた。歴史を学び、教訓を得よう。
扇田昭彦『日本の現代演劇』(岩波新書)
 我が国のアート諸ジャンルが政治性を失って久しいが、そもそも政治と芸術は密接に結びついており、本書では演劇ジャンルでのそれを学べる。政治性を失うとすべてが“趣味の問題”になってしまう。鋭敏な表現者の諸君ほど、どんな画期的な試みも“趣味の問題”を超えられない現状にイラだっているはず。品切れだが、古本屋や図書館で探すことは比較的容易。
赤瀬川原平『反芸術アンパン』(ちくま文庫)
 戦後日本の前衛美術をほとんど一人で背負ってきたような著者の回想記。1949年から63年にかけて毎年開催されていた読売新聞社主催の「読売アンデパンダン展」。誰でも無審査で自由に作品を出品できるこの美術展が、次第にわけのわからない前衛芸術家たちの実験場にされてゆく経緯を、まさにそのわけのわからない連中の一人であった著者が詳述する。
赤瀬川原平『東京ミキサー計画』(ちくま文庫)
 上記の続編。60年代半ば、アンデパンダン展という格好の実験場を失った前衛芸術家たちは、街に飛び出した。過激な芸術運動はやがて法に抵触するまでに至る(手書きの精妙な「千円札の絵」が通貨偽造の罪に問われる)が、著者たちはその裁判の法廷をも怪しげなパフォーマンスの会場に変えてしまう。他にもさまざまの実践が詳しくレポートされている。
 塚原史『言葉のアヴァンギャルド』
              
(講談社現代新書)
 前衛芸術の歴史をその起源にまでさかのぼって理解しよう。本書では、20世紀の前衛芸術の出発点となった未来派、ダダイズム、シュールレアリズムについてそれらの誕生の経緯を当時の社会情勢や思想潮流との関連も含めて解説されている。それぞれが芸術におけるファシズム、アナーキズム、トロツキズムであるとも云える。品切れなので図書館で探すべし。
浅羽通明『アナーキズム』(ちくま新書)
 一口に左翼思想といってもいろいろである。20世紀左翼の本流となったマルクス・レーニン主義の他にも、社会民主主義やアナーキズムなどがある。そしてまたアナーキズムといってもいろいろである。過激な直接行動主義から穏健なユートピア願望まで幅広い。本書ではさまざまのアナーキズムが、それぞれの魅力や問題点も含めて紹介されている。
浅羽通明『ナショナリズム』(ちくま新書)
 左翼思想がいろいろであるのに対して、右翼思想はそうでもない。左翼がかつてない理想社会を未来に求めるのに対し、右翼の理想社会は「失われてしまった過去」にあるためだろう。理想社会のイメージを、右翼の方が共有しやすいのだ。しかし細かく見ていけばやはり右翼思想もいろいろである。正統的なものから異端的なものまで、ナショナリズムの幅広い解説書。
福田和也『地ひらく』(文春文庫)
 先に挙げた『魂の昭和史』の詳細バージョンで、それぞれブ厚い上下二巻の大作である。満州事変の首謀者であり、“軍部の暴走”を主導したともいえる関東軍参謀・石原莞爾の生涯を軸に、日本の近現代史を情熱をこめて描いている。歴史認識の問題に関しては、日本の戦争責任を云々する左翼のものよりもこっちの方が公正だし、だからこそ考えさせられもしよう。
竹田青嗣『現代思想の冒険』(ちくま学芸文庫)
 社会を変えようと思うなら、思想・哲学についても大ざっぱには理解しておくべきである。本書は非常にオーソドックスな、いわば教科書的な入門書で、つまり高校の倫理の教科書にあるような近代哲学史をより詳しく、さらに教科書にはまだ載っていない近年(80年代半ばまで)の展開も丹念に解説したものである。
笠井潔『ユートピアの冒険』(毎日新聞社)
 上記『現代思想の冒険』では省略されている、1960年代末の世界的な若者の反乱(日本では全共闘運動)と現代思想との密接な関係について詳述。ここが分かっていない若い研究者が多く、だから日本の文系の学問レベルは下がりまくる一方である。本書は“博士と少年”的な対話形式で解説されていくので初心者にも読みやすいが、品切れらしく図書館で探すべし。
村上龍『愛と幻想のファシズム』(講談社文庫)
 本書を読んでいきなりまっすぐに共感できる人は少ないだろう。だがいったん読み始めたら止まらない面白さもまた否定できないはずだ。舞台は(本書が書かれた時点ではまだ“近未来”だった)80年代末の日本。一人の若いカリスマ的指導者が現れ、その率いるファシスト党「狩猟社」が急速に勢力を拡大してゆく。万が一、現時点で共感できるなら即、我々団へ。